蕎麦珠祭遊覧記(そばーじゅまつりゆうらんき)

蕎麦珠祭りとは、160年前まで愛知県西部で行われていた祭りである。ソバージュというヘアスタイルを崇める祭りであるが、髪が傷むということに農民が気付き始めるとともに廃れていった。 巻物には祭の様子が事細かに記されており、興味深いことに文末には蕎麦珠の神も見に来ていたと書かれている。作者の興保知多(こうぽちた)というのは霊媒師でもあり、本当に神が見えたと言われている。

——というフィクションな歴史を、巻物と法被、守り神の置物で表現。

現代語訳

夕暮れが赤く染まる頃、 蕎麦珠祭りが行われる。 ソバージュの神を祀る行事だ。 参加者は皆、ソバージュに似せた頭巾を被り、 神の化身となる。 以前、農民はパーマを当ててこの祭りに臨んだが、 (近年は)若者が嫌がり頭巾になった。 子供たちがみこしに続く。 引き続き踊る者、演奏する者が騒ぎ出し、 祭りが始まる。 踊りは自由で、皆揃っていない。 遠い国の羽合の踊りをする者もいた。 旗を持った者は、 鼻の飾りが気に入らずそのあとすぐ取っていた。 楽団は実に面白い。 演奏者の域を越え、雑技団のように飛び回っている。 特に鼻で笛を吹いている古川という者は、 鼻孔がまるで神の宿だ。 観客は皆楽しみ、 ソバージュ帽は飛ぶように売れる。 その中にとびきり大きな鳥が見えた。 蕎麦珠の神だ。 減量中なのか少しやつれておったが、 口元は少し緩んでいた。